『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

大船渡市末崎町の仮設住宅・高台移転の概要

東日本大震災後、大船渡市末崎町には5ヶ所、計313戸の仮設住宅が建設されました。市営球場の大田仮設(134戸)、末崎中学校校庭の平林仮設(70戸)、末崎小学校校庭の山岸仮設(58戸)、民有地の小中井仮設(27戸)と大豆沢仮設(24戸)の5ヶ所。2018年3月末、末崎町で最後まで残されていた大豆沢仮設が閉鎖となり、これにより末崎町の震災からの復興は大きな区切りを迎えたと言うことができます。
震災からの復興が大きな区切りを迎えた現時点で、末崎町の仮設住宅、高台移転について振り返ってみたいと思います。

仮設住宅への入居

末崎町内の仮設住宅は、震災から2~3ヶ月が経過した2011年5~6月にかけて入居が行われました。

大田仮設

山岸仮設

住民らが集まる場所として山岸仮設には集会所、その他の4ヶ所の仮設住宅には談話室がもうけられていました。それぞれの仮設住宅ごとに自治会が結成され、自治会の活動のサポートをするために、仮設住宅には2~3名ずつの支援員が常駐、ないし、巡回していました。
「大船渡仮設住宅団地Official Site」には、「支援員は仮設団地のリーダーではありません。それぞれの自治会や住民の皆さんの活動のお手伝いをするのが役割です」と書かれた上で、支援員の仕事として以下が挙げられています。

  1. 談話室・集会所の管理
  2. 仮設住宅団地の見回り
  3. 住民の皆様からの困りごと相談受付
  4. 物資、大船渡市広報、イベント告知資料等の配布
  5. 仮設住宅団地への訪問受付
  6. 集会所利用予約(イベントなど)の受付
  7. 団地コミュニティ醸成のお手伝い
  8. 皆さんが安心して暮らしていけるように大船渡市や社会福祉協議会さん等の活動をお手伝いします
  9. 広報の作成
  10. 各種帳簿への記録と管理

仮設住宅の閉鎖

小・中学校の校庭としての利用を再開するため、校庭の仮設住宅から先に閉鎖されることとなり、山岸仮設、平林仮設は2016年6月末に閉鎖。山岸仮設、平林仮設では2016年6月末までにはほとんどの入居者が高台移転を終えていましたが、他の仮設住宅に移転した入居者もわずかにいました。
仮設住宅の閉鎖後、校庭の復旧工事が進められ末崎小学校では2016年12月6日に「おかえりなさい校庭の会」が、末崎中学校では2016年12月15日に「校庭利用再開式」が開催。東日本大震災から仮設住宅への入居までにかかった時間は2~3ヶ月であるのに対して、仮設住宅の閉鎖から校庭の利用再開までにはその倍の時間がかかったことになります。
2017年5月20日には末崎小学校で「こいのぼり大運動会」が、2017年5月17日には末崎中学校で運動会が開催。これが震災後初めて、校庭で開かれた運動会となります。震災のあった2011年に小学校1年生だった子どもたちは、校庭での運動会を経験しないまま卒業したことに配慮し、2017年5月20日の「こいのぼり大運動会」には小学校を卒業したばかりの中学1年生を招待したプログラムも行われました。
民有地に建設された小中井仮設は2016年12月末で、市営球場に建設された大田仮設は2017年3月末で閉鎖されており、既に市営球場の復旧工事もほぼ完了しています。そして、上に書いた通り2018年3月末で大豆沢仮設が閉鎖となりました。

おかえりなさい校庭の会

末崎中学校の運動会

高台移転

仮設住宅からの移転先には災害公営住宅、防災集団移転、自力再建などがあります。
災害公営住宅は、末崎町内の3ヶ所に建設。集合住宅形式の平団地(11戸)、平南アパート(55戸)と、戸建て住宅形式の泊里団地(6戸)である。このうち、平団地、平南アパートは「居場所ハウス」の近くに建設されており、平団地は2014年5月に、平南アパートは2016年6月に入居が行われました。泊里団地の6戸は、防災集団移転促進事業の17戸とともに「リアスの丘」として整備された。「りあすの丘」は、2017年6月5日に街びらきが行われました。防災集団移転促進事業による住宅は、末崎町内の10地区で計135戸が建築されています。

平団地

平南アパート

防災集団移転促進事業「小河原地区①」

末崎町の行政区

震災前、末崎町には18の行政区が存在していました。それぞれの行政区の中心になるのが地域公民館*1)です。
震災の影響により2013年3月には泊里地域が解散、2017年3月には細浦地域と内田地域が合併。行政区の数が減少する一方で、55戸の災害公営住宅「平南アパート」は既存の行政区に加わらず、災害公営住宅の自治会単独で新たな行政区「平南団地」を設立。「平南アパート」は平地域に立地していますが、平地域の世帯数が他の集落に比べて多くなり過ぎるなどの理由から、単独の行政区が立ちあげられることになりました。新たな行政区「平南団地」が設立されたことで、現在、末崎町の行政区は17となっています。各行政区の世帯数は40~200世帯となっています。

末崎町内の行政区(公民館・自治会)は強いまとまりをまった地縁型の組織。震災後、従来の公民館とは別に、5ヵ所の仮設住宅それぞれに自治会が設立されたことで、仮設住宅の入居者は、震災前に住んでいた行政区の公民館、仮設住宅の自治会の2つの地縁型の組織に同時に所属している状態でした*2)。仮設住宅の入居者のうち、高台移転によって従来の行政区に戻る人は同じ公民館にそのまま所属し続けることになりますが、別の行政区に高台移転する人は所属する公民館が変わることになります。
このように震災後の末崎町では、解散・合併・設立により行政区自体が変化すると同時に、行政区の構成員も変化していくという意味で地縁型の組織に揺らぎが生じていたと考えることができます。その揺らぎも、高台移転がほぼ完了したことで収まりつつあります。「居場所ハウス」はこのように地縁型の組織に揺らぎがあった時期に開かれた場所だと言えます。
なお、上に書いた通り仮設住宅の自治会は、仮設住宅の閉鎖に伴い解散となりました。ただし、山岸仮設の元住民は、仮設住宅が閉鎖された後も「居場所ハウス」で自治会主催の同窓会を継続して開いており、仮設住宅で生まれた関係が今でも継続されていることは注目すべきことです。

*1)地域公民館は自治公民館であり、社会教育施設としての公民館とは異なる。自治公民館の建物は、行政区(集落)住民の共有財産である。
*2)仮設住宅に住んでいた市役所への派遣職員、被災地支援として来た人など、被災者以外の人は仮設住宅の自治会のみに所属していた。

山岸仮設の同窓会

資料:末崎町の仮設住宅・高台移転に関わる略年表

2011年

  • 3月11日(金):東日本大震災
  • 4月8日(金):大田仮設(第1期118戸)の建築着工
  • 4月11日(月):平林仮設(70戸)、山岸仮設(58戸)の建築着工
  • 5月6日(金):小中井仮設(27戸)、大豆沢仮設(24戸)の建築着工
  • 5月11日(水):大田仮設(第2期16戸)の建築着工
  • 5月11日(水):大田仮設(第1期118戸)が完成
  • 5月11日(水):平林仮設(70戸)、山岸仮設(58戸)が完成
  • 6月8日(水):大田仮設(第2期16戸)が完成
  • 6月13日(月):小中井仮設(27戸)が完成
  • 6月16日(木):大豆沢仮設(24戸)が完成
  • 9月20日(火):大田仮設の広報『大田仮設住宅だより』第1号、山岸仮設の広報『山岸団地だより」第1号が発行。以後、毎月1回発行
  • 9月25日(日):平林仮設の広報『8-3談話室かべ新聞』第1号が発行。以後、毎月1回発行
  • 9月28日(水):大豆沢仮設の広報『大豆沢仮設住宅だより』第1号が発行。以後、毎月1回発行
  • 9月30日(金):小中井仮設の広報『小中井仮設住宅だより』第1号が発行。以後、毎月1回発行
  • 11月:小中井仮設、大豆沢仮設の談話室が完成

2012年

  • 6月20日(水):末崎町デイサービスセンター内に末崎地区サポートセンターが開設

2013年

  • 2月:防災集団促進事業「小細浦地区」の住宅敷地造成工事が始まる
  • 3月:東日本大震災による大きな影響を受けた泊里地域が解散
  • 4月2日(火):末崎地区サポートセンターが、末崎中学校前に移転してオープン
  • 4月:平林仮設の談話室が完成。それに伴い、今月から平林仮設の広報は『平林談話室かべ新聞』第20号として発行
  • 6月13日:居場所ハウスオープン
  • 6月:防災集団促進事業「門之浜地区」の住宅敷地造成工事が始まる
  • 9月28日(土):BRTの碁石海岸口駅が開業
  • 12月:防災集団促進事業「細浦地区」の住宅敷地造成工事が始まる

2014年

  • 1月:防災集団促進事業「小細浦地区」の住宅建築が始まる
  • 3月:防災集団促進事業「峰岸地区」「小河原地区①」「小河原地区②」「梅神地区①」「梅神地区②」の住宅敷地造成工事が始まる
  • 4月:防災集団促進事業「門之浜地区」の住宅建築が始まる
  • 5月:平地域内に建設された災害公営住宅「平団地」(11戸)への入居開始
  • 5月:防災集団促進事業「神坂地区」「泊里地区」の住宅敷地造成工事が始まる
  • 11月:防災集団促進事業「小河原地区②」の住宅建築が始まる
  • 12月:防災集団促進事業「梅神地区②」の住宅建築が始まる
  • 2015年

  • 1月:防災集団促進事業「細浦地区」の住宅建築が始まる
  • 4月:防災集団促進事業「神坂地区」「梅神地区①」の住宅建築が始まる
  • 6月25日(木):今月から仮設住宅の広報は、末崎町内の5ヶ所の仮設住宅合同の広報『末崎地区仮設団地だより』(第46号)として発行されることになる。
  • 7月:防災集団促進事業「峰岸地区」「小河原地区①」「泊里地区」の住宅建築が始まる

2016年

  • 4月25日(月):末崎町の仮設住宅合同の広報『末崎地区仮設団地だより』第56号(最終号)が発行
  • 6月1日(水):災害公営住宅「平南アパート」(55戸)への入居開始
  • 6月25日(土):今月から仮設住宅の広報は、大田仮設のみの広報『大田仮設団地だより』第57号として発行
  • 6月30日(木):末崎小学校校庭の山岸仮設、末崎中学校校庭の平林仮設が閉鎖
  • 8月25日(木):『大田仮設団地だより』第60号(最終号)が発行
  • 12月6日(火):末崎小学校校庭にて「おかえりなさい校庭の会」開催
  • 12月15日(木):末崎中学校校庭にて「校庭利用再開式」開催
  • 12月31日(土):民有地の小中井仮設が閉鎖

2017年

  • 3月31日(金):市営球場の大田仮設が閉鎖
  • 3月31日(金):末崎地区サポートセンターが閉鎖
  • 3月:災害公営住宅「平南アパート」(55戸)の自治会が、独自の行政区として「平南団地」を結成
  • 3月:細浦地域と内田地域が、細浦地域として合併
  • 5月5日(金):防災集団移転促進事業の17戸、一戸建て災害公営住宅「泊里団地」6戸が整備された「りあすの丘」で街びらきが行われる
  • 5月17日(水):東日本大震災後、末崎中学校校庭での初めての運動会が開催
  • 5月20日(土):東日本大震災後、末崎小学校校庭での初めての運動会「こいのぼり大運動会」開催

2018年

  • 3月31日(土):末崎町で最後の仮設住宅、民有地の大豆沢仮設が閉鎖

2019年

  • 3月31日(日):大船渡市応急仮設住宅支援協議会が事業を終了
  • 5月31日(金)、大船渡市内のプレハブ応急仮設住宅の全世帯退去が完了。全世帯の退去が完了したのは、宮古市以南の岩手県内沿岸被災自治体では初めて

※参考

  • 大船渡仮設住宅団地Official Site」ウェブサイト
  • 岩手県ウェブサイト「応急仮設住宅の建設に係る進捗状況について」のページ
  • 『広報大船渡』2014年1月9日号、2015年11月5日号に掲載の「主な復興計画事業のスケジュール」。防災集団促進事業の地区名は『広報大船渡』に掲載の地区名に従っている。
  • デジタル公民館まっさき」ウェブサイト
  • 「大船渡の仮設、退去完了 宮古以南で県内初」・『岩手日報』2019年6月1日

(更新:2019年6月8日)