『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

リメイキング・アワ・ハートランド(ROH)でリニューアルされた近隣センター@トア・パヨ

シンガポールでは、国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が開発する住宅に住んでいます。シンガポールでは今でも、プンゴル(Punggol)、テンガ(Tengah)など新たな街や団地が開発されていますが、同時に、既存の街や団地のリニューアルするプログラムも行われています。ここでご紹介するのは、ROH(Remaking Our Heartland:リメイキング・アワ・ハートランド)というプログラです。

ROH(Remaking Our Heartland:リメイキング・アワ・ハートランド)

HDBのウェブサイトにはROHが次のように紹介されています。

「2007年のナショナル・デー(建国記念日)の集会で、リー・シェンロン首相が発表した「Remaking Our Heartland」(ROH)は、既存のHDBの街・団地を刷新・発展させる包括的な再生計画(comprehensive rejuvenation blueprint)です。このプログラムを通じ、HDBの街・団地を活性化するため、それぞれのエリアの特色を活かしながら、コミュニティの変化するニーズに応えるエキサイティングな計画が策定されます。」
※HDB「About the Remaking Our Heartland programme」のページの翻訳*1)

ROHは、2007年の導入以来、次の13のHDBの街・団地が対象とされています。

ここでは、2015年、ROH3に指定されたトア・パヨの中で、トア・パヨのN5近隣センター(N5 Neighbourhood Centre)がどのようにリニューアルされたかをご紹介したいと思います。

トア・パヨのN5近隣センターのリニューアル

ROHによるトア・パヨのN5近隣センター(N5 Neighbourhood Centre)のリニューアルは、優れたHDBプロジェクトを表彰するHDBアワード2025において、デザイン賞の優秀賞を受賞しています。

「トア・パヨN5近隣センター(N5NC)は、トア・パヨ・ロロン8の交差点にある小さな公園に隣接し、210から212号棟にはホーカー・センター(hawker centre)、生鮮市場(wet market)、店舗など日常の利便施設があります。既存のプラザは、スロープや段差を取り除いて平坦化され、シームレスでバリアフリーなアクセスができるように改修されました。
庭園のようなオープンプラザは、近くの公園、小売店、飲食店のエリアと調和的に統合され、地域住民が集まる場所になっています。公園内の曲がりくねった歩道はオープンプラザへと延長され、保存された大木や緑が、景観整備された活動スペースや休憩エリアを彩っています。コミュニティのイベントを開催できる新たなイベントステージは、刷新された近隣センター(neighbourhood centre)に活気をもたらします。駐車場の機能的な車両ゾーン(utilitarian vehicular zone)には、拡幅されたスロープと日陰の休憩スペースを備えた自転車駐輪場が設けられ、近隣センターへのもう1つの入口として機能しています。
このプロジェクトは、既存の共用スペースや通過スペースを配慮された環境に転換し、近隣センターに利便性、アクセシビリティ、活気をもたらします。店舗、生鮮市場、オープンプラザ、休憩スペース間の接続性が向上したことで、住民から好評を得ており、より結束力のある包括的な近隣住区(neighbourhood)を実現しています。」
※HDB「HDB Awards 2025」のページの翻訳

ホーカー・センター、生鮮市場の入る210号棟の南西側には、新たな看板が設置されています。

210号棟、211号棟、212号棟に囲まれたエリアがオープンプラザ。オープンプラザの南側にはステージがもうけられ、中央には何本かの大きな樹木。大きな樹木を囲むようにベンチがもうけられています。

オープンプラザを囲むようにホーカー・センター、飲食店(コーヒー・ショップ)があり、訪れた時も多くの人が過ごしていました。

リニューアル前の写真(2022年5月撮影)を見ると、オープンプラザの樹木は、保存されたものであることがわかります。

オープンプラザ北側の植栽の近くには、トア・パヨ・ヘリテージ・トレイルの看板。トア・パヨ・ヘリテージ・トレイルに指定されている場所のうち、N5近隣センターの近くにある4つの場所が紹介されていました。

ROHでは、211号棟、212号棟の店舗のファサードも改良されています。

210号棟、211号棟の間の通路には植栽がされ、いくつかベンチが置かれていました。

210号棟の北東側にも、円形のベンチが設置されています。近くには自転車置き場も見かけました。

ROHによって、トア・パヨN5近隣センターはこのようなリニューアルが行われました。シンガポールでは新たな街や団地を開発するだけでなく、既存の街や団地の環境を改善していくプログラムがあることは興味深いことだと思います。


ROHから話は外れてしまいますが、トア・パヨN5近隣センターの210号棟の南東側には小さな祠が祀られています。通りかかった時、買い物帰りと思われる高齢の男性がお祈りをされているのを見かけました。
トア・パヨN5近隣センターだけでなく、他のホーカー・センター、生鮮市場のある建物の周りでは、祠が祀られています。

大阪府企業局が開発した千里ニュータウンは、政教分離の考えから宗教施設が計画されることはありませんでした*4)。一方、シンガポールでは、HDBの街や団地の中に、宗教施設や宗教にまつわる場所を見かけます。団地の住棟と宗教施設、宗教にまつわる場所の組み合わせは、千里ニュータウンではあまり見かけない光景として、目にとまります。


■注

  • 1)翻訳にあたってはHDB Townを「HDBの街」、HDB Estateを「HDBの団地」の訳語をあてた。このページに、ROHの対象が「既存のHDBの街・団地」(existing HDB towns and estates)と記されているように、ハートランド(Heartland)はーチャード・ロードとビジネス街の外側の、HDBの街・団地が集まるエリアを意味する。
  • 2)イーストコーストは、ベドック(Bedok)の一部。
  • 3)ジュロン・レイクは、ジュロン・イースト(Jurong East)、ジュロン・ウエスト(Jurong West)の一部、及び、ブキ・バトック(Bukit Batok)の一部からなるエリア。
  • 4)ただし、千里ニュータウンにも宗教にまつわる場所はある。詳細はこちらの記事を参照。